兵庫西脇の小さな織物工場に、世界のテック企業が目を留めた理由に迫る

西脇・玉木新雌に学ぶ、“世界に届くローカルブランド”のつくり方
兵庫県のほぼ“ヘソ”、西脇市。
市内の川沿いに、今回工場見学する会社があります。
会社というより、ちょっと不思議な『村』。
その「村」の名は――tamaki niime、有限会社玉木新雌。
今回の工場見学の目的は、当社がものづくり補助金を活用して導入予定の
ニット機械を既にビジネスで活かしている会社が西脇市にあることを知り
訪問しました。
ニット織り機を見ることがメインですが、この記事では、それを含めて、
小さなテキスタイルカンパニーがなぜ、世界の感度の高い人たちを惹きつけたのかを、
様々な切り口からこの会社が紡いだ糸を紐解いていきます。(糸の会社だけに)
①駐車場に踏み入れた瞬間からわかる「らしさ」
一言で言うと、この村は「至極の言葉が散りばめられている場所」
まず目に飛び込んできたのは、社用車。
社用車を一周ぐるりと回ると、「なるほどね!」と胸に残る小さなフレーズが
次々と目に飛び込んできます。
この社用車は「荷物を運ぶ」のではなく、「tamaki niineブランドコンセプトを運ぶチームの一員になる」ことなんだと思わずにはいられません。
(ただこの車の後ろを走る車は、散りばめられた言葉に注目しずぎて
信号無視する可能性も。そんな危険なポエムのような社用車。)
そして次に目に飛び込んできたのは、「一点モノの自販機」(中身はサントリーだけど)
自販機まで「作品」扱いにしている憎い演出。

自販機の近くには、ロゴマークの入ったゴミ箱。
汚れた物を捨てるのに、なんだか汚れた物も綺麗な状態で捨てなきゃいけない気持ちにさせるtamakiダストボックス。


紅葉した玄関の小道の中から羊たちが見え隠れしたり、

「秘密の部屋」と好奇心をくすぐる階段があったり、と
「この会社只者ではない!」と入る前から分かります。
そして、いよいよ、エントランスからショールームに。

ショールームにはプロモーションビデオが流れているのですが、
このプロモーションビデオ、なんと世界のテック企業の1つApple社が来社して作ったとのこと。
「Appleのスタッフ30人ほどがきて、真っ黒な照明の中で撮影が始まったんです」
②世界がざわつく「すごいところ」その1
一本一本の糸からオリジナルの布を織り上げ、
まったく同じものが二つとないショール、通称Only one shawl。
そのストーリーは、ニュースではなく“物語”として語り継がれ
Appleの「Small Business Success Stories」に選出。
Apple 公式サイトにビジネス事例のページに、この会社は登場し、世界に発信されています。
地方のものづくり企業が、「伝統産業 × デジタル × スモールビジネス」の最前線で
在庫管理からECサイト運営、写真撮影、Mac・iPad・iPhone をフル活用して働く
スタッフの姿が思わず前のめりに見入ってしまいます。

世界がざわつく「すごいところ」その2
ショールームを抜けると、常識外れのスケール感の織り機がひしめき合うLabと呼ばれる空間が
現れます。
年季の入ったメリーゴーランドのように動く織り機もバリバリの現役稼働
「その都度メンテしてます。」とのこと。
そして、この会社の凄みは、普通の会社なら「仕入先」や「協力工場」と分業するところを、
糸の染め・織り・編み・縫製・販売・発信までをして行う仕組みを構築し、
伝統産業を“村”として再生したところ。


年代物の織機からクラウドまでも、一気通貫
-
古い織機で「only one shawl」を織る
-
最新のデジタルツールで在庫・EC・クリエイティブを管理する
年代物の織り機が未だ現役で稼働している横でリアルタイムで鎌倉店舗と繋がってデジタル配信。
“アナログ最前線”と“デジタル最前線”の両端を同時に握っているからこそ、
Appleの事例としても説得力があるわけです。
“ローカルとグローバルを、一本のショールの糸で紡いでいる”
ここにも「小さいのに、やたらスケールが大きい会社」のすごいところが見えてきます。
代表・玉木新雌さんの「すごいところ」
播州織に“新しい解釈”を持ち込んだ人
玉木新雌さんは、もともと福井県勝山市出身のファッションデザイナー。
「伝統の播州織を守る」だけではなく、
「播州織の新解釈と開発を目指し」て tamaki niimeを立ち上げました。
代表の想いは伝統に新しい解釈という糸を織り込み“常識にとらわれない会社”をつくる。
経営者でありながら、組織そのものを一つの作品として育てている
クリエイター、もしくはストーリーテラーでもある感じ方。
様々な媒体の取材を読んでそう感じます。
取材といえば、スタッフの方が、「色んなところに書かれている言葉は、取材の時に発せられた
言葉なんです」

玉木さん自身が、すでに圧倒的な一点モノのブランド。

漢字でもなく、ひらがな、
フォント選び、余白のとりかたもきっと全てビジュアル設計されているはず。
一つひとつの言葉選びが、
“企業”というより一つの世界を運営しているクリエイティブチームのような印象を与えます。
玉木さん自身の言葉は、「こう生きたい」「こうありたい」という本音の断片です。
工場見学する前に、案内してくださる方スタッフに
スタッフを含めて撮影禁止のところがあれば予め教えて欲しいと伝えたところ
「全てどこでも撮影OK」と広報スタッフにとってはなんとも嬉しい太っ腹なお返事が🎵。
全てオープン。
確かに、在庫管理や業務フローまでの“見せ方”、出荷、梱包の箱に至るまで
「裏側の仕事」も含めてブランド体験にしてしまってます。
これは、二度と同じものが作れない、全て一点モノにこだわる代表の玉木さんの
ある取材で語った
「他ではできないという自信を持っているので大丈夫。『やれるもんならやってみい!』というマインドです」
ここまで「見られて困らない工場」をつくれる会社は、実はそう多くありません。
この視点があるからこそ、世界中のクリエイターや感度の高いお客様を惹きつけているのでしょう。
“ヘソ”から世界へと伸びていく一本の糸のように、
tamaki niime は 単にローカルカンパニーのレイヤーを飛び越えて、
テキスタイルを、グローバルマーケットへ届けるハブとなっています。
まとめ:一本のショールから、世界観ごと好きになる会社
有限会社玉木新雌は、
-
伝統産業を再解釈し
-
デジタルとものづくりを行き来し
-
村のような会社をつくり
-
そのストーリーごと世界に届けている
“西脇の小さな織物メーカー”という枠にはまらない存在です。
一本のショールを巻いた瞬間、
ただ「似合う・似合わない」を超えて、「こんな生き方、働き方っていいな」と
感じさせてくれる会社でした。
ブログ用に一文でまとめるなら、こんな感じ。
「ここでは、駐車場も、自販機も、ショールームの壁も、ぜんぶ“玉木新雌のひと言”でできている。」










