大学卒業後大阪で就職。父親の病気をきっかけで31才で帰郷。
『戻ってきたばかりの頃は、携帯に入っている地元の友達の登録件数はたった3人だった』と笑う西村所長が、故郷で働くことを通して、どう地域との絆を築いていったのかを伺いました。
■ 新聞を届けるだけの存在からの脱却
ー西村さん「新聞販売店の主な収益は、配達、折り込みチラシ作業、集金の3本柱で成り立っています。父の後を引き継いた頃は、新聞業務だけをするつもりでした。しかし、仕事をするうちに、また、笠原さんの主催するおひねり勉強会に参加するうちに、もしかして、新聞販売店って新聞業務だけでなく他にもやれる事があるんじゃないか?と思うようになりました。」
34才で正式に所長に就任。
ー西村さん「所長に就任した時は、仕事を“お金もうけ”の手段としてしか捉えていませんでした。もちろんそれも大事な事ですが、何でもできるということに気づいてからは、新聞配達業務以外の事業も手掛けてみようと思ったんです。仕事を“お金もうけ”から“地元の人に喜んでもらうきっかけづくり”という視点に変わった瞬間でした。」
—笠原 「具体的にはどういったことをされたのですか?」
ー西村さん「暮らしに役立つクーポンチラシの“あさまるクーポン”や日高広報誌『HIDAKA EMOTION』の発行、そして、“まごころサポート”等です。まごころサポートでは、“床下に狸がいる”、“旅行中、配達の時に猫に餌をやってもらえないか?”といったリクエストがあります。
毎日のちょっとした困ったこと、こんなサービスがあったらいいな、をお手伝いさせていただいております。」
■地元に小さなハッピーを!
新聞販売店のイメージ戦略にも取り組んだ西村所長。
一般的に磨りガラスの向うの薄暗い作業場で黙々と折り込み作業を男性がしているといったイメージが強い新聞販売店。しかし、江原新聞販売店は、明るい日差しが差し込む窓際にずらりと並ぶスタンドライトがトレードマークのお店。人が集まるような販売店にしたかったという言葉通り、店内は、一見すると喫茶店のようなレイアウト。
実際、「お茶飲める?」と喫茶店と間違って入ってこられた人もいたそうです。
「気軽にお茶を飲んでもらうような憩いの場所にすることこそ僕の目指すところです。」
西村さんを含む男性スタッフ2人の他に2年前から女性スタッフも採用。
スタッフTシャツ制作のためにお打ち合わせにも以前来社して下さった女性スタッフのお二人。
ー西村さん「そりゃあ、むさ苦しいおじさんより若い女性に集金してくれる方がいいでしょ!新聞のイメージを良くするのも悪くするのも、新聞社というよりも私達新聞販売店です。
新聞販売店のCSR(企業の社会的責任)を意識しないといけません。新聞を届けるだけの存在から脱却することが必要です。
まごころサポートをしていると、利益とは別に“有難う。助かったわ。これ持って帰りんせ~”と畑でとれた手作りの野菜などの差し入れをよくいただきますが、地元の人達からの喜びの声を聞くと、新聞業務以外のこともやってきて良かったのかなと思っています。
お金よりもこの“有難う”をもっと集めようと思っています。今後も、こういった“小さなハッピー”を提供するコミュニティービジネスを重視していきたいですね。
これからは『仕組みと仕掛けづくり』といった事業化が大切になってきます。売り上げはこういった現場の仕掛けづくりの上で生まれた付加価値の中から生まれてくるのではないでしょうか。」
■ IT vs 新聞は本当か?
地元の人の絆を大切にして仕事への付加価値を追求し続けていこうする西村所長。
—笠原 「最近は、生まれながらにITに親しんでいるデジタル・ネイティブ世代が増えてきていますが、この世代の活字離れは本当に起こっているんですか?また西村さんにとって新聞とは何ですか?」
ー西村さん 「新聞はもはや40才以上のシニア層の嗜好品です。活字離れというよりは、紙離れは確かに起こっています。ただ、決して若い人が新聞に興味がなくなったというとそうではありません。
先日、地元の小学校に朝日小学生新聞を無償で提供したところ“新聞ってこんなに面白いんだ!”って言った子供達がいるんです。新聞は事件を追うものではなくなってきています。電子ペーパーやスマートニュースの誕生で新聞はインターネットに駆逐されるのではないかと言われているんですが、私は新聞の未来は明るいと思っていますので地域を知り尽くした新聞販売店が地域に根ざすコミュニティーボックスになれたらと思っています。」