神鍋高原の麓にある観音寺という集落。村の真ん中に兵庫県指定文化財である観音寺仁王門が建立するこの村に、陶芸家小田垣かすみさんの陶芸工房があります。
陶芸の道を歩まれた彼女の生き方や想いなどを『かじか工房』でうかがいます。
会長笠原と同じ地区でお互いに幼い頃から知っているということでざっくばらんな会話でスタート。
■発想によって色んな使い方ができる焼き物が好きです
ー笠原「高校卒業してすぐに陶芸の道に進んだけど迷いはなかったの?」
ー小田垣さん「そうですね。自分の中では焼き物づくりというものがごく自然で当たり前のような存在でしたからね。21歳で結婚、それから子育て、母の介護、さらには、13年前に叔父であり但馬焼きの師匠でもある山根毅が亡くなってからは、無我夢中の毎日でした。」
ー笠原「途中で辞めようとは思わなかった?」
ー小田垣さん:「それは全く思いませんでしたね。やはり好きだったからでしょうね。私も私の周りの環境も自然と陶芸の道を歩むものと思っていましたから。そして今年でちょうど40年。一つの節目として、この工房を開きました。
工房のすぐ横に流れる清流のせせらぎを聞きながら創作に没頭できる『かじか窯』
ー小田垣さん「かじかの鳴き声が聞こえるんですよ♩」
日本一美しい鳴き声でなくと言われる清流に生息するカジカガエルの名前にちなんだ工房。
ー小田垣さん「1つの使い方しかできないっていうものや、すでに完成されたものはあまり好きじゃなくて、
発想によって色んな使い方ができる焼き物が好きです。
人とは違ったものを作ろうというのが焼き物作りの前提にあります。”こんなの見たことないわ”って言って下さるのを聞くとやはり嬉しいですね。」
ー笠原「人とは違ったものっていうのは商売する上では大切だよね。お互い負けず嫌いだよね、そうじゃないと商売はやっていけない。僕は借金した状態でスタートした商売。よくブレたらダメって言われるけど、じゃあ何をブレたらいけないのか?僕の場合は、やはり『絆づくり』というのが軸にあって、オリジナルTシャツはあくまで絆作りのツールであって手段として捉えている。今後もそれはブレないと思う。」
■売り手と買い手が融合するようなモノづくり
ー笠原「今回かすみさんを取材しようと思ったのは、まだ世に知られていない、いいものが埋もれていると感じたから。この世界観をもっと発信するようなことを何か考えている?例えば、豊岡はコウノトリの住む町だからコウノトリをモチーフにした作品やコラボ品を作ったりとか。」
ー小田垣さん「コウノトリそのものずばりの焼き物というのではなく、それを感じられるようなコウノトリの羽や全ての生命体の象徴である卵をモチーフにした焼き物を作っていきたいですね。日常生活で、毎日使っても飽きない、使いたいという焼き物を作っていきたいと思っています。”土のものは使いこめば使いこむほど時代が出る”といますから。」
ー笠原:「ベクトルが自分の方に向いているのが趣味、相手に向いているのが仕事。かすみさんの世界観を世に発信していくには、とにかく提案していく。「こんなものが欲しかった!」って言ってもらうには要らぬお世話をどんどんすることで、実のある利益が生まれる。失敗しても他人は全然気にしてないから!恥ずかしいのも一瞬。否定されたとしても、人間性を否定されたわけでもないんだから、どんどん提案していくこと。」
ー小田垣さん:「そうですね。失敗も勉強ですね。楽しいことは忘れずに前に進んでいきたいと思っています。」
■「自分の意志で生きることは選択できます」
ものづくりの道を歩まれている小田垣さんだけあって、彼女の庭も情緒溢れる独特の世界観がにじみ出ている庭です。木漏れ日の差し込む樹木の中に、彼女の焼き物が見え隠れしています。
落ち葉や苔までも彼女の作品を味わい深いものにしています。さらに先月にオープンした母屋のギャラリー一室も見せていただきました。透かしの麻の着物が初夏の光と風を差し込み、古い蓄音機の上に作品である一輪挿しの山野草が揺れてます。焼き物に盛られた手作りのよもぎ餅、きなこ棒、甘酒もご馳走になりました。
動画でかじか窯をお楽しみ下さい。
「オープンガーデンにも参加して、色んな方々と付き合ってます。経験や知恵をいただき焼き物の幅を広げていこうと思っております。染色とか織物といった手仕事にもチャレンジして、そこから今までにない新しい焼き物を作ることができたらと思っております。同じ世界にいるとどうしても暗くなるから、色んな年齢の人や職業の人との交流を楽しんでいます。人は、生まれるのも死ぬのも自分では選択できませんが、生きることは選択できます!
明日や来年のことはわかりません。今日の”今”を楽しむことにしています。「今でしょ!」っていう言葉、あれ本当ですね。(笑)
友達とのお付き合いも「今から〜にするけど空いてる?」って今日を大切にしてます。」
「迷いも不安も沢山経験し、迷いながら”何とかしないといけないことを何とかしてきた。これからも何とかなる!”だからこれからも不安はもちろんありますが、何とかしていこうと思っています。」
学校を卒業して自分の生きる道を見つけ、選択してきた小田垣さんの「生きることは選択できる」という言葉は説得力のある言葉です。
自然との絆、作品との絆、仲間との絆の「今の」生活をていねいに暮らされている陶芸家小田垣さんでした
かじか窯
〒669-5354 兵庫県豊岡市日高町観音寺671
http://www.eonet.ne.jp/~kajikagama/